大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)1443号 判決
原告
二貝浜子
同
二貝晃史
右法定代理人親権者母
二貝浜子
右原告両名代理人
河原正
(外二名)
被告
田守俊
被告
黒山農業協同組合
右代表者理事
竹口敏行
右被告両名代理人
佐藤雄太郎
被告
大阪府運輸農業協同組合連合会
右代表者理事
室木広治
右代理人
吉田朝彦
第一 主 文
一、被告田守俊、同黒山農業協同組合、同大阪府運輸農業協同組合連合会は、各自、原告二貝浜子に対し一、一〇九、七七三円およびこれに対する昭和三九年七月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、原告二貝晃史に対し一、七〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年七月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告二貝浜子のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用は被告三名の連帯負担とする。
四、この判決一項は、かりに執行することができる。
五、ただし、被告三名が各自、原告二貝浜子に対しては一、〇〇〇、〇〇〇円、原告二貝晃史に対しては一七〇〇、〇〇〇円の各担保を供するときは、右各仮執行を免れることができる。
第二 本訴申立て
一、原告二貝浜子
「被告三名は、各自原告二貝浜子に対し、一、五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年七月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え」との判決ならびに仮執行の宣言。
二、原告二貝晃史
主文一項同旨の判決ならびに仮執行の宣言。
第三 争いのない事実
死亡交通事故発生
発生時 昭和三八年二月一三日午前一〇時ごろ
発生地 大阪市西成区津守町西五丁目四一番地先交差点
加害車 被告大阪府運輸農業協同組合連合会所有名義の小型四輪貨物自動車(大四こ五〇五号)
運転者 訴外市埜洋治
死亡者 亡二貝信次郎(原動機付自転車運転中)
態 様 訴多市埜は右交差点を北進中亡信次郎の車と衝突、ために信次郎は死亡した。
第四 争 点
一、原告両名の主張
(1) 被告三名の責任原因
(イ) 被告田守および被告黒山農業協同組合(以下被告組合という)は、本件自動車の実質上の所有者であり、訴外市埜は同被告らの運転手であつて、同被告らのため運転業務に従事していた。
かりに被告組合が本件自動車の所有者でなく、市埜を雇傭していなかつたとしても、同被告は被告田守に自己の名義を貸与し、本件自動車の車体に黒山農業協同組合と大書することを容認し、名義貸与料を徴収しており、かつ右自動車により被告組合の倉庫にある食糧の運搬を専属的に行なわせていた。
(ロ) 被告大阪府運輸農業協同組合連合会(以下被告連合会という)は、被告田守および被告組合に対し自己の名義を貸与し、本件自動車による食糧の輸送管理につき下部団体たる被告組合を管理支配し、かつ本件自動車の所有名義人としてその運行維持、管理等につき指示支配をしていた。
(ハ) よつて、被告三名は、自動車損害賠償保障法三条により、本件自動車の共同運行供用者として、亡信次郎の死亡により生じた損害を賠償する義務がある。(中略)
二、被告田守、同組合の主張
(1) 本件自動車の所有者は被告田守であり、訴外市埜は被告田守の使用人であつた。
(2) かりに被告田守および被告組合が本件自動車の運行供用者であるとしても、本件事故は亡信次郎の過失により発生したものであつて、訴外市埜には運転上の過失はなかつた。
三、被告連合会の主張
(1) 本件自動車は被告田守の所有である。しかるに被告連合会名義に所有権の登録がなされているのは、被告組合が右自動車をその所有に属するものといつわり、その登録名義のみ被告連合会とすることを希望したため、被告連合会は右自動車が被告組合の所有であると信じて、自己名義にその登録をしたものである。
したがつて、本件自動車の所有者たる被告田守と被告連合会の間には、なんらの関係もないし、被告連合会はその運行につき被告田守や訴外市埜ならびに本件自動車による運送等を指揮または管理する地位になく、これらを指揮、管理した事実もない。
(2) かりに被告連合会が本件自動車の運行供用者であるとしても、本件事故は亡信次郎の過失によつて発生したものであつて、訴外市埜に運転上の過失はなかつた。(以下=省略)
第六 争点に対する判断
一、被告三名の責任原因
(1) 本件自動車の運行供用者
(証拠)によれば、つぎの各事実が認められる。
(イ) 被告田守は被告組合の組合員であり、被告組合は被告連合会の会員(組合員)であること。
(ロ) 被告田守は本件自動車の所有者であるが、同被告の自家用車名義では米穀の運送業を営むことができなかつたので、昭和三七年ごろ被告組合の職員藤戸総治に対し、右自動車につき被告連合会の名義を使用させてもらいたい旨懇請したこと。
(ハ) 被告組合では当時自家用車がなかつたので、被告田守の右申出を了承し、被告連合会から被告組合の責任のもとに名義使用の了解を得、本件自動車に関する納税義務者および自動車損害賠償責任保険の保険契約者は、いずれも被告連合会とされたこと。
(ニ) 被告連合会は自動車運送事業の免許を得ているが、自家用車はなく、会員の運送事業に必要な物資の取次ぎや観光事業の斡旋をするほか、多数の会員に対し、その自家用車につき連合会の名義を使用させ、一台ごとに名義貸与料を徴収し、これを事業の経営資金の一部にあてていたので、本件自動車についても名義貸与料として年間六、〇〇〇円を被告組合から徴収し、被告組合は被告田守から名義転貸料として年間二〇、〇〇〇円を受領していたこと。
(ホ) 被告組合と被告連合会の間では、本件自動車の運行につき被告組合が十分監督し一切の責任を負う旨の話合いがなされていたこと。
(ヘ) 被告田守は被告組合の近所で無免許の米穀運送業を営んでいたが、被告組合の倉庫にある米を運搬したことも少なくないこと。
(ト) 本件自動車を運転していた訴外市埜は、助手席にいた被告田守に雇傭された運転手であつたが、本件事故当日警察官の取調べに対し、「勤務先は黒山農業協同組合(被告組合)で自動車は同組合の事業用であり、同組合の指示で港区の倉庫に荷物を取りに行く途中の事故である」旨供述したこと。
(チ) 被告組合の参事らは本件事故の報告を受け、原告浜子方を弔問したこと。
(リ) 被告組合は被告田守に対しいつでも前記名義の転貸を解除し得る地位にあつたこと。
以上の認定に反する証拠は採用できない。
そして右(ハ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(リ)の各事実から、被告田守としては被告組合から物品運送の依頼があれば断わらず同組合の便宜をはかつていたこと、被告田守の行なう運送の業務は被告組合の業務に包含されるような外観を呈していたこと、ならびに被告組合は本件自動車の運行に無関心ではあり得なかつたことが容易に推認できるのである。
かようにみてくると、被告田守が本件自動車の運行供用者であることは明白であり、また被告組合は前示認定のような名義転貸その他の関係をとおして被告田守の米穀の運送業務ひいては同被告による本件自動車の運行供用行為を管理支配し得る地位にあつたものというべく、かつ名義転貸料をも収受していたのであるから、かかる場合には被告組合も本件自動車の運行供用者であるということができる。
つぎに被告連合会は直接被告田守による本件自動車の運行供用行為を規制し得る地位にはなかつたけれども、その会員たる被告組合に対しては法律上統制権限を有するのであるから(農業協同組合法二二条二項の除名権等)前示認定のような名義貸与その他の関係ならびに右統制権限にもとづき、被告組合を介して、被告組合の管理下にある被告田守の米穀等の運送業務ひいては同被告による本件自動車の運行供用行為を管理支配し得る地位にあつたものとみてさしつかえなく、また名義貸与料をも徴収していたのであるから、かかる場合には被告連合会もまた本件自動車の運行供用者と認めるのが相当である。被告連合会は本件自動車につき名義を貸与したのは被告組合に対してであつて、被告田守に貸与したのではない旨主張するけれども、被告連合会の名義を借用した本件自動車を現実に所有し使用して営業する者で被告組合でなく被告田守であつても、それは前認定の事実よりして被告連合会にとり予想外のことではなく、しかも被告田守の営業が被告組合の管理支配下にあつたと認められる以上、被告連合会は被告組合が右自動車を所有し使用する場合と同じ程度の管理支配権を有していたと認めてさしつかえないと考える。
(2) 免責事由の不存在
(証拠)によれば、訴外市埜は本件交差点に時速約三五ないし四〇キロメートルで進入し、亡信次郎の運転する第二種原動機付自転車が自車の前方を横切ろうとしているのを左斡め前方約七・八メートルの地点に初めて発見し、急制動をとつたがおよばず本件事故に至つたことが明らかであり(証人市埜洋治の証言中これに反する部分は信用しない)、当時運転手市埜に運転上の過失がなかつたことはこれを認め得る証拠がないので、被告三名はいずれも後記認定の損害について賠償の責任を免れ得ない。
二、損害額
(1) 亡信次郎の得べかりし利益の喪失額四、八五八、六四三円
(証拠)によれば、亡信次郎は大正一二年二月一日生れで死亡当時四〇才であつたこと、同人は身長一メートル六五センチ位、体重六〇キログラム位の健康な男性であり、昭和二二年ごろから父慶三とともに広島、山口方面で林業を営んでいたこと、亡信次郎の妻原告浜子実子同晃史は家庭の事情で昭和三六年八月ごろ来阪し、亡信次郎から生活費として月平均二五、〇〇〇円程度の仕送りを受けて生活していたことが認められ、(証拠)も、いまだ右認定を左右するに足りない。
とすれば、亡信次郎は死亡当時少なくとも一カ月二五、〇〇〇円の純利益を得ていたというべく、昭和三八年度の簡易生命表によれば、四〇才の男性の平均余命は三一・七九年であるから、そのうち二五年間は前記林業経営に従事し得たものと認められ、その間の得べかりし利益の額をホフマン式計算法により、月別民事法定利率による単利年金現価率を用いて計算すると、四、八五八、六四三円(円未満切捨)となり、同人は死亡によりこれを喪失し、同額の損害を蒙つた。
算式
25,000円×194,34575275≒4,858,643円
亡信次郎に運転上の過失がなければ原告浜子は右金額の三分の一たる一、六一九、五四七円、原告晃史は三分の二たる三、二三九、〇九五円の各損害賠償請求権を相続により取得することになる。
(2) 原告浜子の慰謝料額 一、五〇〇、〇〇〇円
原告晃史の慰謝料額五〇〇、〇〇〇円
前段(1)認定の事実ならびに(証拠)により認められる左記の事実を考慰した。
(イ) 亡信次郎の死後原告浜子、同晃史は、生活の支柱を失い原告浜子の弟の家に身を寄せ、内職の和裁で一カ月五、〇〇〇円の収入を得、不足分は弟の援助を求めて糊口をしのいでいる状態にあること。
(ロ) 原告浜子は昭和二年四月五日、同晃史は昭和二九年二月一二日生れであり、将来夫または父なき身の寂しさを身にしみて味わわなければならないこと。
(ハ) 被告田守は亡信次郎の葬儀費約一一万円を支払つたこと。
(ニ) 原告両名は自動車損害賠償責任保険金五〇〇、〇〇円を受領していること。
三、過失相殺
(1) (証拠)によれば、亡信次郎は道路を北進中本件交差点において右折するに際し、あらかじめ道路の中央に寄ることなく道路の左側からいきなり右折を開始し、右側を北進中の訴外市埜の運転する本件自動車の前方を横切ろうとしたため、亡信次郎の運転する第二種原動機付自転車の右側面に右自動車の正面が衝突したことが認められる。亡信次郎の運転する原動機付自転車が右自動車より先に本件交差点に入つていたとしても、右折の場合にはあらかじめその前からできるかぎり道路の中央に寄るべきであり、かつ前後左右を十分注意して右折しなければならないのである。しかるに亡信次郎は前記のように道路の左側からいきなり右折を開始したと認められるし、また右折を開始する際後方の安全を確認しなかつたものと認めるほかはないのであるから、これらの点において亡信次郎に運転上の重大な過失があつたといわざるを得ない。
一方右各証拠によれば、訴外市埜には前方注視義務を怠つた過失があり、その過失も相当重大であると認められる。
かような両者の過失の程度、各車両の大きさ、危険性その他諸般の事情を考慮すると、原告両名の各損害額はいずれもその二分の一を過失相殺すべきである。
(2) そうすると、被告三名が原告両名に対し負担すべき賠償額はつぎのとおりになる。
(イ) 原告浜子に対し、
A 財産的損害賠償額
前記一、六一九、五四七円の二分の一たる八〇九、七七三円
B 精神的損害賠償額
前記一、五〇〇、〇〇〇円の二分の一たる七五〇、〇〇〇円
(ロ) 原告晃史に対し、
A 財産的損害賠償額
前記三、二三九、〇九五円の二分の一たる一、六一九、五四七円
B 前記五〇〇、〇〇〇円の二分の一たる二五〇、〇〇〇円
四、原告両名の本訴各請求の当否
(1) 原告浜子の請求認容部分(附帯請求を除く)
A 財産的損害賠償請求一、二〇〇、〇〇〇円のうち前記八〇九、七七三円
B 精神的損害賠償請求三〇〇、〇〇〇円全額
(2) 原告晃史の請求認容部分(附帯請求を除く)
A 財産的損害賠償請求一、五〇〇、〇〇〇円全額
B 精神的損害賠償請求二〇〇、〇〇〇円全額
五、結論
そうすると、被告三名に対し不真正連帯債務の関係において、一、五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する本件死亡事故後の昭和三九年七月二日から支払いずみまで民法の定める年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告浜子の請求は、主文の限度で理由があるから認容しその余を棄却すべく、一、七〇〇、〇〇〇円およびこれに対する右同様の遅延損害金の支払いを求める原告晃史の請求は、全部理由があるから認容する。
訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行および同免脱宣言につき同法一九六条を適用した。(谷水 央)